私たちの先輩=創立時の働き人たちは、関東大震災の被災の中であったにも関わらず、具体的に支援を始めました。自身の安全の確保も、食事も満足に得られない状態だったのかもしれません。それでも目の前にいる、住まいや家族を失った高齢者に愛の手を差し伸べたのです。この時の思いは100年間引き継がれてきました。とはいえ簡単なことではありません。そこには重要な考え方や姿勢つまり「使命」を感じ、その上で引き継がれてきたと考えられます。
何をおいても「先ず目の前にいる（ある）求めに応える」「手を差し伸べる」というキリストの愛がその働きの原動力になりますが、歴史の中ではその時々でさまざまな状況があり、同じことの繰り返しではなく、常に「今」何が求められているかを知ることが重要でした。そのことが「本質的なものは忘れないが、常に新しい変化も取り入れていくこと」だったのだろうと思います。
振り返れば、地域への貢献活動や利用者や職員を大切にする実践は、その時、その時代に合った方法でしたし、それまでの常識では考えられないことに取り組んできたのは、奇を衒うことではなく、細かな情報の収集や分析の上で、制度や仕組みが無くても必要だという判断の上の実践だったのでしょう。
さて関東大震災から100年が経過し、私たちのコミュニティは豊かになり、手を差し伸べることが必要だったような方たちも、随分と豊かになっているのか？と問うと残念ながら、統計によれば孤独による多くの課題を抱えた人たちは、とても多いというのが現状のようです。
コロナ禍にあって、自粛を求められた高齢者などの孤立は特に顕著なものとなり、さらに“引きこもり”となりました。幸いなことに一時に比べコロナ感染症は減少しているようですが、多くの感染者が出た時期の高齢者は、居場所を失くすことを体験し、そのまま他者との関係を失っている人も多いのではないでしょうか。
2000年にスタートした高齢者支援の仕組みである「介護保険」の制度は、20年以上経過する中で、見直しを行い、また新たな支援策も生み出してきましたが、一方その制度に忠実に事業展開していくために、各事業所は同じ運営を求められ、その事業所の個性は、排除されつつある状態です。“どこでも同じサービスを受けられる”という点では利用者本位なのかもしれません。新しい事業所に代わっても、同じサービスを利用できるという事ですが、“私たちらしさ”“東京老人ホームらしさ”がそこに必要であると考えます。